道に迷う

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 近道をするつもりで小道に入り、道に迷った。
「ナビのない車なんか、あり得ない」
 はじめての田舎道を右へ左へとまがっているうちに、どちらに向かっているのかさえわからなくなった。どちらに向かえば大通りに出ることができるのだろう。どこかで停まってスマホを確認する必要があった。


 助手席を見ると、彼女が流れる景色を見ている。
「ごめん、道に迷ったようだ」
 僕は彼女にいった。彼女はそれを気にするでもなく、空を見上げた。青い空には、白い雲が力強くはり出していた。
「入道雲!」
 彼女はそういい、眩しそうに目を細めた。


「ナビがないとすぐに道に迷う。まるで僕の生き様と同じだよ」
 ため息混じりに、僕はそういった。
 依然、大通りにでそうな気配はない。
「スマホで確認してみてくれない?」
「なぜ?」
 彼女は少し驚いた顔をして僕を見た。
「道にばかり迷っていたら、先に進めないだろ」
 僕はそう答えた。
「でも、迷わなければ見れない景色もあるよ」
 彼女はそういって前方を指差した。そこには小高い丘が見えた。何の花だろう?無数の黄色い花が群生してきれいだ。


 その丘の近くに、大きな送電線の鉄塔が見えた。鉄塔は一定の間隔でたっていて、それがかなたまで真っ直ぐに続いている。そしてその方向に、一本の大きな道が見えた。


 今までの僕の人生も、無駄ではなかったということか。見方さえ変えれば、むしろ得ることもあったということだろうか。僕はそう思いながら彼女を見た。


 彼女は僕の疑問に答える代わりに、軽くウインクを返した。うまくはないウインクだった。でもそれは、僕を包み込むほどの優しさを伴っていた。ナビを使うことなく、出ることのできた大きなその道は、目的地へと続く国道だった。




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