父の誇り
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「おはよう」
私は、息子に声をかけた。息子の代わりに、キッチンで弁当を作っていた妻が「おはよう」と答えた。息子も何かいったようだったが、もごもごと言葉にならない。
「おちついて食べなさい。胃に悪いぞ」
私は息子の向かい側に座り、ダイニングテーブルの上にあった新聞を広げた。景気が緩やかな回復傾向にあるといった経済面の記事が目を引いた。
「今日は試合なんだ。おくれちゃうよ!ごちそうさま」
そういうと、息子は勢いよく立ち上がった。息子の身長は、180センチ以上あった。肩幅は私のそれを大きく上回っている。目の前に黒い壁がたちはだかったかのような圧迫感を覚えた。
息子は弁当箱と柔道着を大きなバックに放り込み、ジッパーをしめて肩に背負った。
「いってきます」
息子はそういうと、電車で一時間ほどの講道館へと出かけていった。
私は、新聞の経済欄に目をやったまま妻にいった。
「まったくですね。1000gだったのにね」
妻は答えた。新聞から目を離して妻を見ると、妻は肩をすくめてクスリと笑った。
「あの子、個人戦の優勝候補らしいわよ」と妻がいった。
すでに、複数の大学からもオファーがきていた。あの時の小さな命が、そんな今の息子と一本のラインでつながっていることを、私はなかなかイメージできないでいた。
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