久しぶりの海

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「久しぶりの海だね」と彼女は言った。
「そうだね」とボクは答えた。
ボクは嘘をついた。
先日ボクは、別の子とこの海を訪れていた。
最低な男だった。


ポイントに移動すると、
絶好の波がそこにはあった。
ボクは早速その波に乗った。
彼女は浜辺で見守っていてくれている。
彼女に見守られていることで感じる安堵感。
それは、何物にもかえがたい。
真の幸福はやはりここにある。


何度目かの波に乗ったとき、ボクは決意した。
彼女と生涯を共に歩もう。


これまで、いっぱい心配かけたけど
何度も泣かせてしまったけど
これからは、その分きっと幸せにする。
波待ちの時に、
あれこれと言葉を繋ぎ合わせてみる。


でも・・・
彼女を幸せにする言葉は、
なかなか見つけることができなかった。


その日は沈む夕日が美しかった。
「君に伝えたいことがあって・・・」
彼女を幸せにする言葉は、
シンプルな一言でいいことに、
ボクはやっと気づいていた。


生涯に一度であるはずのその言葉。
いつになく鼓動が激しい。
「私も伝えたいことがあるの」
と、彼女は言った。
「え?なに?」
「あなたには・・・」
「もう、私はいらないね」
翌週から戦争が再び始まった。


心に空いた穴は、
非情にも仕事に埋め尽くされた。
時間さえ戻すことができたなら。
非現実的願望。
「幸せでいてね」
別れ際の涙と彼女の一言。
いれるはずがない。
本当に大切なものは
失ってみて初めて気づく。


後悔は先には立ってはくれない。



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