来年の夏の約束

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「来年の夏は、海でいっぱい泳ぎたいな」
彼女はそういって、ボクの腕に絡みついた。
その年、ボクは大きなプロジェクトを抱えていて
彼女を海に連れていくことができないでいた。


「約束するよ」


ボクは、翌年の夏のスケジュールだけは
フルに空けると心に決めた。
約束は、何にも優先すべきことだ。
彼女との約束であれば、なおさらだった。


一年は長いはずだった。
経過してみると、あっという間に感じられた。
いろいろなことが、ありすぎたからだろうか。


夏、ボクは仕事をまったく入れなかった。
海を見下ろせる場所にコテージを借りた。
約束を、完璧に守りたかったからだ。


コテージ近くの入り江。
誰もいない静かなビーチは
二人で過ごすのに絶好だった。


「約束の海だよ」
ボクは、澄んだ海に飛び込んだ。
海中はブルーに近いフィルターを通してみる
絵のようだ。
少しだけ潜り、手のひらをゆっくりと開く。
その部分が、少しだけ白く濁った。
ボクはその白濁した水を、胸に抱きよせた。


思う存分、一緒に泳ごう。


彼女は、喜んでくれているだろうか。
ボクは、約束を守ったのだろうか。
海中の涙は、誰にも知られることはない。
3か月間流し続けたのに枯れることはなかった。
海中の嗚咽に、肺が悲鳴を上げる。
それでもボクはそこにとどまっていたかった。


もう一度だけ
彼女の笑顔を感じたかった。



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