星に願いを

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 海沿いを走るバイパスは、深夜ということもあり車が少ない。道を照らす街灯がないため、闇に沿って走るかのようだ。このバイパスを通り、彼とよくドライブに出かけた。
 彼との数多くのシーンが、スライド写真のように次々に思い出された。楽しいはずの思い出が、容赦なく私の胸を締めつける。涙があふれ、視界がゆがむ。人差し指で涙をぬぐった。
 海に張り出す小さな駐車場に、私は車を滑り込ませた。暗い海に向かって車を止め、ライトを消してエンジンを切る。
 時折通過する車のエンジン音、そして僅かに波の音が聞こえる。フロントガラスいっぱいに広がる真っ黒な空。良く見ると、空には数多くの星が輝いていた。


 些細なことを発端とした喧嘩は、互いに収拾の策を見失った。私は別れ話を持ち出し、彼もそれに承諾をした。二人で借りた家を、彼が出て行ってから二日が経っていた。


 突然、夜空を斜めに切り裂くかのように、星が流れた。私は瞬時に消え行く輝きに願った。手を合わせる時間はなかった。
 ――― どうか、彼ともう一度……。


 流れ星が消える前に願い事を言うことなど、無理に近かった。
 静かな車の内に、メッセージの着信音が響いては消えた。私はスマホをタップしてメッセージを確認した。


 <俺が悪かった。これから帰るよ>


 彼からだった。私はゆっくりと夜空を見上げ、「ありがとう」と言った。私を祝福するかのように、いくつかの星が瞬いていた。



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