水着の跡

Sponsored Link


私の夏が終わりを告げようとしていた。
南の夏はいつにも増して暑かった。
水着の跡がくっきりと残っている。
その時の記憶は振り返りたくなかった。


「ひと夏の恋」という言葉がある。
使い古された言葉が
自分に当てはまる意味がわからない。
上り詰めた私の心は
しっかりと梯子を外されていた。
あの大きかった太陽のように
私の心も熱く激しく燃えた。
その想いはマリンブルーの海にさえ
冷やすことはできなかったはずだ。
いつまでもいつまでも燃え続けるはずだった。
むしろそれはスタート地点であるはずだった。



私の夏が終わりを告げようとしていた。
今年の冬は厳しい寒さになるという。
その頃になれば水着の跡は消えるだろうか。
「いつまでも一緒にいよう」
その言葉には「今年の夏は」が抜けていた。


永遠に続くはずの燃え盛る私の心は
ある日突然行き場を失った。
むしろ私が振ったんだ。
無意味なストーリーを作り上げてみる。
一瞬の高揚感とその後に訪れる大きな喪失感。
視界が涙で歪む。


冬までの間には秋がある。
素敵な季節が訪れようとしている。
夏を引き留めておく理由は
今の私にはどこにもないはずだ。
過去の傷は未来に幸せをもたらさない。
前を向いて歩む以外私にはない。


水着の跡が消える頃
きっと私は新しい恋に胸を焦がしているはずだ。
そう自分に言い聞かせた私は
石の街へと戻るために空港へ向かった。



Sponsored Link


■お勧め作品