巡る夏の中で
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フロントウィンドウに、透明で静かな海が広がっていた。
「夏はやっぱり海だよね」
君はそういってボクの腕に絡みついた。
デニムのショートパンツに流行のプリント柄の白いTシャツの君。マリンブルーの海と、まぶしいほどに白い雲。感動的なまでの夏の光景に、君は完全に同化していた。
ボクたちは、さっそくピックアップトラックから降りた。潮の香りをいっぱいに含んだ海風が、君の髪と、ついでにボクのアロハシャツを揺らした。
太陽が、いつもの二倍以上も大きく見えた。
「泳ごうぜ」とボクがいった。
「泳ごう!泳ごう!」と君が答えた。
準備は互いに完璧だった。
Tシャツとショートパンツを、君はピックアップの荷台へと脱ぎ捨てた。海よりも濃いブルーのビキニ、わずか数秒で君の変身は完了だ。アロハとジーンズを、ボクも荷台に脱ぎ捨てる。紺色のビキニでは、君には少し不釣合かもしれなかった。
ボクの先を走る君が振り返った。
「はやくー」と手を振る。
ボクは君に追いつき、君の手を取った。海に向かって二人で走り、そして透明な海に飛び込んだ。究極の幸せが、どこまでも続くものとボクは思った。
それから多くの夏が巡っては去った。
ボクはかつてのシーンを、大型四輪駆動車の窓から見ていた。美しい海と空は、なんの変わりもなくそこに存在した。うつろいのスピードは、むしろ自然より人間がはやかった。
なぜ君だけが今、ここにいないんだろう。
「泳ぐかい?」とボクがいった。
「泳ごう!泳ごう!」と彼女は答えた。
キャミソールとショートパンツを脱ぎ捨てた彼女が、イチゴ柄の白いセパレーツ姿で海に走ってゆく。
彼女が振り返り、手を振った。
「はやくー」
その顔、そのしぐさ、すべてが君にそっくりだった。
―――もう、13になったんだよ。
ボクは彼女に手を振りながら、君にそういった。
青い空の彼方で、君は微笑んだに違いなかった。
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