峠の向こう側
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ベールが開かれるかのように
朝靄が左右に抜けてゆく。
眠りから突然起こされたエンジンは
怒りにも似た甲高い雄叫びを上げる。
身体にフットしていて心地良い。
フルフェイスのシールドを落とす。
道路の路面状況とタイヤの状態を確認し
徐々にスロットルを開く。
視界が一気に狭くなっていく。
わずかに残る朝霧を切り裂いていく。
コーナーに突入してからでないと
タイトなRに、気付けないからだ。
タイヤが悲鳴を上げる。
一気にバイクを倒して
ハングオンでバンク角を維持する。
遠心力はすぐに加速Gへと変化する。
フロントの上昇を阻止するために
前傾姿勢を取ってタンクを押さえこむ。
妻の言葉が脳裏を過る。
確かに一人の身体ではなかった。
幼い息子の笑顔が浮かんでは消えた。
次第に走っていることを忘れていく。
低空飛行をする飛行体に乗るかのような
錯覚が起きる。
大気はすぐに厚い壁となる。
俺は前傾姿勢を維持したまま加速を続ける。
俺の走りも、もうこれで終わる。
退屈で平坦な街並みがそこにはある。
安定の中で守るべき幸せがある。
コースのすべては、身体に刻み込まれている。
究極の状況の中にこそ生の原動力があった。
俺は一気に状態を起こした。
分厚い大気の層が一気にスピードを奪い去る。
オーバースピードのまま最終コーナーに飛び込む。
ハングオンの体勢で、コーナー出口を確認する。
大きな障害物が見えた。
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