女心と秋の空
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豚キムチ丼を勢い良く口に運びながら、部下が言った。今年の春の新入社員だ。
「おい、飯粒を飛ばすなよ」
すき焼き丼を食べ終えていた俺は、茶を飲んでいた。
「さっそうと現れて、チンピラ男を飛び蹴りで倒すモモレンジャーの噂ですよ」
―――モモレンジャー?
そういえば先日もそんな話を耳にしていた。
「それってどういう意味っすか?」
「別に他意はないよ」
俺たちは清算をすませて店を出た。
「了解です」
年齢はかなり若いが、なかなかガッツもパワーもある男だ。しかしそれだけに、一歩間違えば転がり落ちるのも早いタイプだ。ただ、この危なっかしさが若さのメリットでもある。
「もう前のことじゃん。いいかげん許してくれよぉ」
ジーンズにアロハ姿の男が、女にそういっていた。
女に隠れて暴れることもあるのだろう。顔には大きな青あざがあった。
彼女はそういって男を睨みつけた。腕っ節の強そうな男が、意外にも「ひい」と悲鳴を上げた。暴れ者のこの男も、どうやら彼女には頭があがらないようだった。
部下は小声で俺にそう耳打ちをした。
「馬鹿な」
この街にそんなヒロインがいるわけがない。そもそも、法治国家にその存在が許されるか疑問だ。
俺の言葉に、部下は歩きながらアタッシュケースの中を確認した。
「ばっちりっす」
部下は俺に敬礼をしてみせた。その仕草がなんとも古くさくて滑稽だった。
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