負け犬
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ショットバーのカウンターに肩を並べて座る彼がいった。同期入社の営業マンだ。エンジニアの俺とは、違う道を歩んでいた。
「決めたのか?」と俺はきいた。
「ああ、決めたんだ」
スコッチの水割りを飲み干してから彼はそう答えた。黒服のバーテンダーが一礼をしてグラスを下げる。
彼は「同じものを」と黒服に告げた。
彼がくわえたタバコに、俺はライターで火をつけながらいった。
「おいおい、随分変な励まし方だな」
吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出し、笑顔で彼が答えた。
戦いに必要な努力から逃げまわり、負けるリスクを伴う勝負を避けてはいなかったか。ただただ楽で安全な道のみをチョイスしてはいないか。
バーテンダーが、新しい水割りを彼の前に置いた。
「お前はいずれ、きっと大成するよ」
俺は、手に持ったロックグラスを彼に掲げていった。
「そういってくれるのは、お前だけさ」
彼は俺の肩をポンと叩き、そして笑った。
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