満天の星

Sponsored Link


「満天の星が見たい」
そう言い出したのは彼女だった。


「星に興味でもあるの?」
「良くわからないけど見たくなったの」


彼女の願い事は
これまで耳にしたことがなかった。
だからこそボクは
彼女にそれを見せてあげたくなった。


暗くて空気さえ澄んでいれば
星はいくらでも見えるはずだった。
天文学や気象学に無知なボクにも
それくらいは推測できた。


あれこれと探し
ある離島のスポットを見つけた。
一週間ほどスケジュールを調整し
ボクはその島に彼女を連れ出していた。


到着して二日目の夜
満天の星がふたりを包み込んだ。


「あの星の名前を知ってる?」
頭上でひと際明るく輝く星を
彼女は指差した。


「ベガだと思う」
七夕祭りの織姫星としても
知られている。


「そしてあれがアルタイル」
彼女はそう言って
天の川の対岸に輝く白い星を指差した。


「アルタイルの近くには・・・という星もあるんだよ」


彼女が星に詳しい事に驚いた。
発音が難しくその星の名を聞き取ることができなかった。


しばらくの間
ふたりは黙って満天の星を見続けた。
「ありがとう」
彼女は泣いていた。


その涙の本当の意味を
その時まだ、ボクは知る術がなかった。
流れ星が
星空を斜めに切り裂いた。



Sponsored Link


■お勧め作品