ランチタイム2

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「まったくやってらんねえよ」
 若いサラリーマンが叫んでいた。ベンチに座る男二人連れの一人だ。オフィス街に面した昼休みのこの公園は、ランチを食べるサラリーマンやOLでいつも混みあう。多くの人生の一シーンが、ひと時ここに集約していた。
「あそこの彼、仕事でイヤな事でもあったのかしらね」
 同僚の彼女はそういってクスリと笑った。


 私たちは、噴水近くのベンチにすわり、近くの屋台で買ったタイ料理のランチ弁当を食べていた。昼近くになると、あちこちにランチを売る屋台が店を開いた。おかげで、さまざまなランチを手軽に楽しめるようになっていた。


「男の人たちって、定年まで仕事を続けなきゃいけないから大変よね」
 私は、インディカ米のフライドライスをスプーンで口に運びながらいった。


 ―――そういう私は、一生仕事をすることにはならないだろうか。


ふと、そんな不安が脳裏をよぎった。


 大学を出て今の会社に入社してから、すでに六年が経過していた。当初は、二,三年内にナイスガイをゲットして、甘い新婚生活へと移行する予定でいた。しかし職場には、ターゲットとして照準をあわせるだけの男が一人もいなかった。なかなか計画通りには、事が運んでくれないものだ。


「そういえば昨日から旦那出張なんだ。今夜飲みに行かない?」
 付き合いの悪い彼女は昨年の冬、大学時代の先輩と結婚し、幸せな家庭を築いていた。
「たまには、踊りにいっちゃう?イケメン外人がいっぱい出入りするお洒落なクラブ知ってるんだ」と彼女は得意げだ。
「あなた既婚者でしょ。何でそんな所知ってるの?」
「それは秘密よ。ね、行くでしょ?新しい出会いがあるかもよ」


 スパイシーな味を楽しみながらのランチタイムは、今夜の計画で盛り上がった。
「大変!昼休み終わっちゃうよ」
 彼女が腕時計を見ていった。
 噴水広場の脇にたつ公園の時計に目を向けると、十二時五十五分を指していた。若いサラリーマンの二人連れは、すでにベンチにはいなかった。


 私たちは急いで仕度をすると、オフィスへと歩き出した。オフィスは、公園に面したビルに入っていた。公園の緑に調和した青い空に、白く輝く入道雲が張り出していた。本格的な夏が、この街にもやってこようとしていた。盛り上がる気分とは裏腹に、今年も淋しい夏になる確率が高かった。



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