彼女の今ほしいもの

Sponsored Link


 彼女のバースデーが近かった。ボクはそれとなく彼女のほしいものを探り出す必要があった。ただし、バースデーを前にあからさまにたずねるのも気が引けた。そこでボクは、第三者を介してそれを調査することにした。
 第三者とは、彼女の妹だ。妹は、彼女より四つ下の音大生であり、チェリストの卵でもある。


 Subject:ちょっとしたお願い
 として、ボクは妹にメールを送った。
 ――― ある事情があって、彼女が今ほしいものを聞き出してくれない?耕平


 という簡単な文面だった。おおよその事情は察してくれることだろう。


 それから3日後、妹からスマホに直接電話が入った。ボクは、取引先から戻る車の中にいた。平日のわりに、レインボーブリッジ上り車線の交通量は少なかった。ボクは、Bluetoothヘッドセットのスイッチを入れた。
「彼女の今ほしいもの、聞いてくれた?」
「うん。ばっちりよ。でもこれ、耕平さんに言っちゃっていいのかな?」
「そんなに高価なものなの?」
「高価というより大変といった方がいいような」
「もったいぶらないで教えてよ」
「あのね、お姉さんの今ほしいものはね・・・・・・」


 彼女のほしいものとは、高価ではないものの大変というか、そんなものだった。ボクは彼女のバースデーまで、その対応を考える必要があった。給与の三倍となれば高価ではある。しかし、それ以上に一生をかけた大きな決断でもあった。


 ――――まさか、自分にリボンもないよな。


 ボクは芝公園ランプで首都高速を下りた。東京タワー方面に走れば、オフィスはすぐだ。むしろ、言い出すのに良いタイミングなのかもしれないと、ボクは思った。



Sponsored Link


■お勧め作品